2014年08月06日

流転の海 宮本 輝

流転の海  宮本 輝

  「流転の海」第一部
  「地の星」 第二部
  「血脈の火」第三部
  「天の夜曲」第四部
  「花の回廊」第五部
  「慈雨の音」第6部
                      
私がこの「流転の海」一部を初めて読んだのは、今から20数年前。
それからは次作が待ち遠しくて…気付けば待つ事6年!
三部が出たのはそれから3年後。
待ちくたびれた。
いいかげんにしてくれ。私は早く続きが読みたいのだ!
(ちなみに私は文庫派なので早く読みたいといっても新刊ハードカバーは見て見ぬふりをする。)

とりあえず三部まで読んだものの、今か今かと待つのはやめる事にした。
だってなかなか出ないのだもの。諦めた。そして忘れた…。

最近、何気に思い出したら…な、な、なんと七部まで出ているではないか!

これは有り難い。読まねば、読まねば、読まねば〜〜〜。
もちろん第一部から。もう内容、細部を忘れちゃってるし。

昭和22年。松坂熊吾50歳。妻、房江との間に待望の子、伸仁が生まれる。
熊吾は伸仁が20歳になるまで生きねばと強く思う。

私がこの本を最初に読んだのは30歳くらいだったと思う。
その時、熊吾は私にとってだいぶ年上の暑苦しいおじさんだった。
そして今、時を経て私は歳をとりまして、1部の熊吾は私より5つも年下に。
小説の面白さは変わらないが、私が多少なりとも経験を重ねた分だけ感慨深いものがある。
本の内容は変わらないが、読む側の年齢によって感動も変わる。
だから読書は面白い。

第三部で熊吾と私は同い年。第四部で私は再び追い越された。

熊吾……人徳、人望、男気があり、情深く、気前良く太っ腹、だが飽きっぽいし怒りっぽい。
家族は頼りながらも振り回される。
女好き。そのうえ妻、良枝に対しては嫉妬深く手に負えない。

時代は戦後。熊吾を中心に様々な登場人物が実に人間臭く魅力的に、これでもかと描かれている。
名前をあげたらきりがない。が、猟銃で自分の首から上を吹き飛ばした<上大道(わうどう)の伊佐男>は印象的かな…。
そして…..朝鮮人が多く暮らしていた「蘭月ビル」。その住人の北朝鮮への帰国も….。

熊吾は歳をとる。伸仁は成長する。時代は変化していく。出会いと別れ。愛が深い…。
なんとドラマチックな物語だろう

6部で息子伸仁は中学2年生。
あどけなさが徐々に消え、思春期の入り口にいる。
伸仁が可愛いです。
そして50歳で父になり60歳を過ぎた熊吾がこれからどう生きて行くのか…本当に読み応えあります。

日曜日の朝、熊吾が寝坊助の伸仁の枕元で「人生に休日はない!」と言って叩き起こすシーンが好きだ。
「なにがどうなろうと、たいしたことはありゃせん」
「自尊心よりも大切なものを持っていきにゃあいけん」
珠玉の言葉があふれてます。

因に第6部「慈雨の音」新潮文庫の解説に作者の家族に触れてます。父、宮本熊市、母、雪恵、長男、輝のこと…….。

7部は図書館の順番待ち…。数ヶ月待たねば。
ああ松坂一家よ!


内容紹介

理不尽で我侭で好色な男の周辺に生起する幾多の波瀾。父と子の関係を軸に戦後生活の有為転変を力強く描く、著者畢生の大作。

内容(「BOOK」データベースより)

敗戦から2年目、裸一貫になった松坂熊吾は、大阪の闇市で松坂商会の再起をはかるが、折も折、妻の房江に、諦めていた子宝が授かった。「お前が20歳にな るまでは絶対に死なん」熊吾は伸仁を溺愛し、その一方で、この理不尽で我侭で好色な男の周辺には、幾多の波瀾が持ち上った。父と子、母と子の関係を軸に、 個性的な人間たちの有為転変を力強い筆致で描く、著者畢生の大作第一部。
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2014年07月21日

「翳りゆく夏」赤井 三尋


「翳りゆく夏」赤井 三尋


江戸川乱歩賞受賞作。

先日、赤井三尋作品「死してなお君を」読んだ時は私にとって初めて読む作家だとばかり思ってたが、違った。だいぶ前、この「翳りゆく夏」を読んでいたではないか…。しかしいつもの事で内容を忘れてしまったので、またもや新鮮な気持ちで読みました。

「誘拐犯の娘が新聞社の記者に内定」。週刊誌にスクープ記事が載る。事件は20年前。当時、犯人は逃走中事故で死亡。すでに事件は解決済み。だが誘拐された新生児は発見されなかった。未だに行方不明。子供は?

社命を受けた新聞社の社員<梶>は再調査を始める。
  
真実は…。

内容の隅々に説得力があり、解決済みの事件の真相が徐々に明らかになっていく。共犯者はいたのか? 真犯人はいるのか? 事件の意外性。いろんな人が絡んできます。

推理小説は事件のからくりに惑わされながらも紐解かれていく爽快感が魅力的であるが、そこに描かれる人間味、思案、機微が小説の醍醐味なのは、言うまでもない。

ラストは映画のワンシーンのようだ。


受賞歴

第49回(2003年) 江戸川乱歩賞受賞

内容紹介

「誘拐犯の娘が新聞社の記者に内定」。週刊誌のスクープ記事をきっかけに、大手新聞社が、20年前の新生児誘拐事件の再調査を開始する。社命を受けた窓際 社員の梶は、犯人の周辺、被害者、当時の担当刑事や病院関係者への取材を重ね、ついに"封印されていた真実"をつきとめる。第49回江戸川乱歩賞受賞作。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

赤井/三尋
1955年、大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、ニッポン放送に入社。小説は30代半ばから書きはじめ、文學界新人賞や江戸川乱歩賞で予選を通 過した経験もある。’03年、『翳りゆく夏』で第49回江戸川乱歩賞を受賞。’06年フジテレビに転籍(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されて いたものです)
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2014年07月17日

「死してなお君を」赤井三尋

「死してなお君を」赤井三尋

久々に私にとって新しい作家に手をのばしてみた。久々に読み応えのある物語だった。好きな小説だ。とは言え読破後のスッキリ感は低い。どちらかと言うと哀しい...。

昭和32年から35年。時代が作る物語。正義感の強い主人公、敷島は造船疑獄の指揮権発動に失望し検事を辞めた。その後の売春汚職を追う読売新聞社記者の立川。地検の権力闘争。検事総長の座。当時の政治家の隠された汚職。フィクションなのだが実名がポンポン出てくる。(かの神近市子衆議院議員も少しだけ出てきます。)

政府公認の赤線が廃止されたのは昭和33年。私の生まれた年だ。昭和30年、吉原の従業女性3822名の半数近くが前借金によって自由を縛られていた。そしてその斡旋は当時の役場が堂々と行っていたのだ。貧困は女性の人権を平気で奪う。我慢がならぬ。貧しい農家に生まれ娼婦として売られた夕子は、ある日敷島と出会う。娼婦と元検察官。そして敷島はある男から依頼を受け、ヤクザを追いつめ拳銃で殺害。敷島を追う刑事、南。敷島の安アパートの隣の優しい住人、田中。チンピラの拓司。娼館の立ち並ぶ片隅でおでんやを切り盛りする元娼婦の菊江。
時代に抗いながら懸命に生きる普通の人々が魅力的に描かれている。

この物語りは権力との戦いだ。権力は恐ろしく愚かだ。そしてその権力が国家を支配している。

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【内容情報】(「BOOK」データベースより)
昭和32年、売春防止法の施行により、まさに赤線の灯が消えようとしている時、東京地検をドロップアウトした元特捜検事・敷島航一は、夕子という娼婦と巡 りあう。そして、政官を巻き込んだ売春汚職、読売新聞記者の「不当逮捕」事件、検察庁内部の派閥抗争という時代の流れに、否応なく巻き込まれていく。夕子 との愛に生きようともがきながら、敷島は奈落の底に落ちていく。

【著者情報】(「BOOK」データベースより)
赤井三尋(アカイミヒロ)
1955年、大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、ニッポン放送に入社。2003年、『翳りゆく夏』で第49回江戸川乱歩賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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