「色彩を持たない田崎つくると、彼の巡礼の年」/村上 春樹 著
<大学二年生の七月から、翌年の一月にかけて、田崎つくるは
ほとんど死ぬことだけを考えて生きてきた。>
物語はここから始まる。
そして十六年後、三十六歳になった現在のつくるの過去への旅。
田崎つくるくんは限りなく 『よいこ』 だ。・・・と思う。
色彩を持たない・・・「僕には個性みたいなものはなかった」
と言うつくるくん。
けれど 「やさしくてクールで、ハンサムだった」 というクロ。
無欲な人間は品がある。・・・と思う。
魅力とは別のものだ。
まったく無欲の人間はいないと思うけど、つくるくんは最低限の
欲求の中で生きていた。
いや?そういうのとも違うのかな・・・。
おとなしいのだ、彼は。
そして、静かに強い。
結局、つくるくんは強い心を持った人なのだ。
泥臭さのないスマートで頭の良い人々の、感性の高い話って、
みんな読んで酔って、気持ち良くなっちゃうのかな。
ビンテージのワインを買うより安上がりだね。
でもビンテージ・ワインだからって万人が全て美味しいと感じる訳じゃない。
美味しそうな振りするのはどうなんだろう。
ラザール・ベルマンの演奏するリストの『巡礼の年』が物語りのBGM。
どんな音楽なのだろう?
この本も売れてるけど、この曲のCDも売れそう。
・・・と物語に相応しくない俗な考えが浮かぶ。
この星には数十億の思考する個体が乗っかっているのだね。
重い・・・。
そして・・・自分の色は他者が勝手に塗りたくる。
灰田よ、いずこ。
灰田はいずこ。